※ ここでは実際の事例をいくつか組み合わせて、フィクションの事例にしております。
 だた、それぞれの要素は事実に基づいています。

成功事例

とりあえずの自筆の遺言で、妻も安心

「夫に遺言を書いてもらいたいのですが、どうしたらいいでしょう?」

「とりあえず、『全ての財産を相続させる』というものだけ、一筆書いてもらいましょうか?」

静子さん(仮名)は、70代後半。
80歳になるご主人がいますが、夫婦の間に子供がいません。

1年ほど前に、ご主人が病気で倒れたそうです。

幸い回復して、今では元気だそうですが、今後に不安を感じるようになったとのこと。

自宅はご主人名義。

万一、ご主人が亡くなったら、自分はこの自宅に住み続けることができるのか?

ご相談を伺って、ポイントは2つあると判断しました。

1つめ
ご主人が亡くなると、相続人は、静子さんと、ご主人のご兄弟。

2つめ
静子さんが、家の名義をもらうには、ご主人のご兄弟全員から実印と印鑑証明書をもらう必要があること。

ご主人の兄弟とはほとんど交流がなく、ご主人の相続手続きは、とても負担が大きいことが考えられます。

そこで、ご主人から、遺言を書いてもらえれば、ということになったのです。

しかし、改まって書くよう頼むのも大変です。

ですから、元も簡単で、かつ、効果的な方法が求められました。

このように、とてもシンプルな文案を、静子さんに提供しました。

「遺言」という言葉もないので、一見すると「遺言」に見えません。

このような簡単なものを書いてもらうよう、ご主人に頼んでみることになりました。

その後、静子さんが事務所に来られました。

「夫は書いてくました。」とのこと。

まさに、こちらが示した文案とおりでした。

見た目は、本当に「1枚の紙ペラ」ですが、有ると無いとでは大違いです。

できれば公正証書の遺言にした方が安心ですので、私は
「この内容でいいので、ご主人は公正証書の遺言を作ってくれないでしょうか?」

「いやぁ、それは無理だと思います。簡単だから書いてくれたのに、また改まってとなると夫も嫌がりますから。」



それから、数年後。

静子さんから連絡があり、ご主人が亡くなったとのこと。

さっそく、当時書いた遺言で相続の手続きをいたしました。

非常に簡単な「紙ペラ」一枚ですが、法的には抜群の効果です。

ご主人のご兄弟のハンコは、もちろん不要です。

ご主人のご自宅も、預貯金も、全て無事に静子さんの無事名義に換えることができました。

法律は、
正しく生きている人の味方ではありません。
知っている人の味方です。

このような、紙ペラ一枚ですが、有ると無いとでは大違いです。

法律に基づいて作成された遺言は、紙ペラ一枚でもとても大きなパワーがありますね。

亡くなる直前の遺言。作れないと会社の継続がピンチに!?

亡くなる直前でも遺言は書けるのか?
しかも、文字が書けない場合。

私(川嵜)が一番ドキドキした遺言は、余命1週間と診断された人の遺言でした。

娘さんからご連絡をいただいたときは、小泉太郎(仮名)さんはガンで余命1週間とのことでした。

娘さんから相談を受け、病院に駆けつけると、小泉さんの全身は点滴など様々なチューブがつながっていました。

挨拶をすると、受け答えはすることができます。

お話しを聞くと、小泉さんが経営する会社の株の全ては後継者である娘さんに、小泉さんが所有する土地の一部は小泉さんの甥に渡したいとのこと。

もし、このまま小泉さんが亡くなられると、甥に土地が行くことはありません。

万一、相続トラブルになると、会社の後継者の娘さんが会社を引き継ぐことができないかもしれません。

小泉さんは全身チューブにつながれ、とても今の内容を手書きで書ける状態ではありません。

公正証書遺言を作るにしても、時間が必要です。

戸籍を集めたり、公証人に病院まで出張してもらうスケジュールの調整など、すぐにはできません。

それまでに小泉さんに万一のことが起きないとも限りません。

自筆の遺言も無理。公正証書の遺言は作る時間がない。どうするか?

民法にはそのような人でも遺言が作れる最後の手段を残してくれています。

「死亡危急遺言」というものです。

小泉さんが話された内容を私が筆記(ワープロ打ち)します。

ワープロ打ちしたものを遺言に関係ない3名の証人と共に小泉さんに確認して、間違いがなければ、遺言にその3名がサインをします。

この遺言は、小泉さんのサインが不要です。

失敗は許されません。背中に緊張の汗が流れます。

早速、事務所に戻り、聞き取った内容をワープロ打ちします。

次の日、私を含め事務所のスタッフ3人で小泉さんの病室にうかがいました。

聞き取った遺言の内容をお伝えし、小泉さんも「その内容で間違いありません」と確認してもらいました。

証人3名で遺言書にサインしました。

その遺言は、すぐに裁判所に持ち込む必要があります。

死亡危急遺言は、裁判所で「確認」という遺言を成立させる手続きが必要です。

裁判所の担当者が緊迫した声で言いました。「小泉さんはまだご存命でしょうか?!」

「まだ大丈夫です!」

「では早速ご本人に面会して、遺言の内容を確認してきます!」

裁判所の担当者はすぐに本人に会われました。

程なくして裁判所の担当者から連絡が来ました。

「遺言の確認が取れました」。

死亡危急遺言の成立です。



小泉さんは3週間後に亡くなられました。

亡くなる直前の病状を考えると、最後のチャンスだったのかもしれません。

遺言に基づき、娘さんは経営権を引き継ぐことができました。

甥に渡したい土地の名義の変更も無事できました。全ての手続きが無事完了したとき、私もホッとしました。

娘さんも「作ってもらって良かった」と、とても喜ばれました。

最初に小泉さんにお会いしたときは、とても通常の遺言は作れない状況でした。

しかし、法律は知っている人の味方です。

「こんな方法がある」、と知っていれば対応できる、典型的なケースでした。

失敗事例

自筆の遺言 ちょっとのミスで無効に?! 70人から実印も

自分の自筆で書く遺言(自筆証書遺言)は簡単に書けますが、ちょっとしたことで無効になるので注意が必要です。

その光子さん(仮名)(70代)は、夫が亡くなったので相続手続をしたいと言って、相談に来ました。

子供はいないけど、夫が遺言を書いてくれていたとのことです。

その遺言を見て私は、愕然としました。

日にちの部分が「吉日」となっていました。

大変残念なのですが、この遺言は無効で使えません。

そうすると、ご主人の相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になります。

この光子さんはご主人との間に子供はいません。

子供がいないと、ご主人の親が相続人になります。

もちろん両親とも亡くなられていますので、その場合は、ご主人のきょうだいが相続人になります。

80代で亡くなられた方でしたので大変多くのきょうだいがいました。

しかも、ご主人のお父さんは離婚歴があり、母親が違うきょうだいもたくさんいらっしゃいます。

しかも、きょうだいもみなさん高齢です。

何人も亡くなられていました。

そうすると、きょうだいの子供たちに相続権が発生します。

調べてみると、あれよあれよと相続人が。

けっきょく、相続手続をするには70名から実印と印鑑証明をもらう必要が出てきました。

法律は、正しく生きていても味方をしてくれるわけではありません。

知る必要があるのです。

きょうだいの中で協力者がいたので、その人の力を借りながら地道に印鑑を集めました。

様々な困難がありましたが、2年かかって何とか相続手続をすることができました。

元はというと、ご主人の遺言の日付が「吉日」となっていただけです。

たったそれだけでこんな大変なことが起こるケースもあります。

自分の自筆で遺言(自筆証書遺言)を書かれた場合、専門家に一度確認するのをお勧めします。

その後の苦労を考えると、専門家に支払う費用は、微々たるものだと思います。

法律を知らないために、とても苦労された例でした。